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【読書】インザプール&空中ブランコ


友人に勧められた本2冊を、ゴールデンウイーク中に読んでみた。なぜに勧められたかというと、「今心理カウンセラーの入り口の勉強をしているんだよ」、といったら「おもしろい精神科医が出てくるから読んでみて」という感じでいわれるがまま、図書館で借りて読むことに。

これは「伊良部」というかなり変わり者の精神科医が、いろいろな患者の悩みを結局は解決していくシリーズの第一弾。2005年には松尾スズキが主演して映画になっているようだが、個人的には主人公の伊良部はデブでわがままで思ったことをすぐ実行しちゃう子供のような性格なので、映像化するならこのキャラの路線でいってほしかったなあ。

小説の内容は「イン・ザ・プール(プール依存症)」「勃ちっ放し(陰茎強直症)」「コンパニオン(自意識過剰)」「フレンズ(携帯依存症)」「いてもたっても(強迫神経症)」の5本だて。それぞれが何かしらの不安要素をもっていて、それが症状にでてくるのですが、本人は原因はなんとなく分かっているがそれをやめられないでいる。

そんな患者に対して、伊良部は直すという意識というより、一緒に遊びながら、本人が問題を理解し、結局は解決していくというお話。個人的に伊良部はほんとは分かって治療しているのかも、あえて変人を演じているのかもという印象を残しつつも、一気によめる小説でした。

その第二弾が、こちら。パワーアップして直木賞もとった作品のようですな。

空中ブランコ
奥田 英朗


こっちは「空中ブランコ(サーカス劇団員)」「ハリネズミ(やくざ)」「義父のヅラ(同級生の精神科医)」「ホットコーナー(プロ野球選手)」「女流作家(売れっ子作家)」の5本だて。こっちは普通の人が主人公というより、あまり普通では会えない人たちの悩みを書いたのが、第一弾より派手に見えて賞もとれたような気がしました。ちなみに、こっちの作品はテレビ化と舞台化がされていました。

サラリーマンからみたら「いいなあ、悩みなんてないんだろうな」と勝手に想像しがちだが、読んでみると「なんだ、みんな悩みをもっているんだ。」という、安心感のような、人の不幸は蜜の味的な優越感に浸れるのかもしれないです。

伊良部の患者の扱い方も相変わらずで、暴走。「空中ブランコ」では自分も1週間で空中ブランコをしてしまうし、「ハリネズミ」では患者のやくざと一緒に、もめている相手の組のやくざに会いにいくし、「義父のヅラ」では出身大学の学長になった患者の義父のヅラを外してしまうし、「ホットコーナー」ではプロ野球選手といっしょに野球をして、牽制球のほうが打率がいいという不思議なことになってしまうし、「女流作家」では自分も作家になるといって、出版社に原稿を持ち込む始末。

伊良部はその患者のやっていることがうらやましくって、自分も一緒にやってみるというのがパワーアップしている。で、この空中ブランコの主人公はその世界のプロの人ばかりなので、ある意味「できるわけないじゃん」という見下し加減が前作よりパワーアップ。だけど最終的には、憎めなくって伊良部のペースにはまり、大切なものを取り戻していくわけです。

ちなみに精神が病んでしまう場合って、「自分は正しい」とか「今の生活がおかしい」とかって全く思わないんだよね。この小説の患者も一緒で、「自分のどこが悪いんだ!」というのがスタートだから、それを否定するとより症状が悪化するし、正当なお医者さんがいってもどこか「分かっているよ、本当に直るの?」という疑念がわいてくる。

その点ではこの変わり者の伊良部医師は、デブで子供じみていてマザコンで、普通の人だったら「自分より下」とか「自分と違う生物」ということで、競合することがない。だから、悩み事もだんだんと打ち明けられるし、先生と患者との絶妙な距離がとれるんだと思う。

心理カウンセラーの勉強でも「患者さんと一緒に寄り添う」「ぶつかり合う言葉はかけない」というのが基本で、ちょっとしたアドバイスも精神状態が不安定なときは「命令」や「指示」に変わって、警戒心が強くなる。まずはその警戒心を取り除くことが必要だよというふうに習っているので、伊良部はある意味サイコーのお医者さんなんだろうな。

あと「傾聴と共感 byロジャース」が基本でカウンセラーはそれを忠実にやりたがるそうだが、その前に患者の警戒心をどうするか、というのは特に習っていないみたい。だから、会って突然「何でも話してください」ということになるそうで
、初めて会った人にすぐに何でもはなせる訳でもなく、だいたいがやり方を間違っているようです。

ちなみに、今教えてもらっている心理カウンセラーの先生もちょっとひょうひょうとしていて、つかみ所はない人ですが、なんだろう何となく「悩みを話してもいいかな」と思わせる雰囲気のある方です。この小説の伊良部と芯のところではちょっとかぶるところがあるなあ、なんて勝手に想像しちゃいました。

ま、そこまで深読みしなくても、普通に楽しめる本ですので、興味があればお勧めししますよ。

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